自動車へのナビゲーションシステムの搭載は今や当たり前、 カーナビと称して親しまれています。 これは移動中に現在位置が地図上の何処に中るのか知ることが出来て初めて可能になります。 これを実現するのに利用されるのが GPS です。 近年ではスマートフォンにさえ搭載されるのは普通のこととなりました。
GPSとは?
GPS(ジーピーエス)とは Global Positioning System の略で 全地球測位システム と訳されます。 元は米国が軍事用に利用していたもので、 打ち上げられたGPS衛星と通信した物体の地上での位置を検出するシステムです。 位置検出にはお馴染みピタゴラスの定理で計算します。 この際3つのGPS衛星との位置関係を計算すれば位置検出は可能な理屈ですが、 使用する時計の時間誤差の補正の為などで4つのGPS衛星が使われます。 米国が打ち上げたGPS衛星は30と言われますのでその内の4つを使うのですね。 元来軍事用目的で有った為、他国に正確な情報を得られない様 SA(Selective Availability)と呼ばれる機能で精度を100m迄落としていましたが、 2007年からは当該機能取り外しが大統領決定され民間利用でも大いに有用となりました。
米国GPS衛星に於ける精度の問題
このGPSシステムはカーナビなど大いに利用されましたが、 しかし…
精度は10m程の誤差を含むものとならざるを得ませんでした。 カーナビを信じて走っていたら道が一本隣で困った経験をされた方なども多いのではないでしょうか。 これは元々が米国のミサイル照準用などとして米国軍が使用するために開発されたものですから 日本国内に於いては致し方のない処でしょう。
この弱点を補う為に様々な補正手段が考案されもしました。 カーナビでは搭載の地図から補正する方法もありますし、 携帯電話やスマートフォンでは基地局を利用する方法もあります。 本ブログ2012年1月13日の記事 ジャイロスコープと地磁気、加速度センサ及び位置姿勢センサ に記した各種センサを用いた方法も用いられています。
しかしこの様な改善が要請されるのは それだけ高精度の位置検出を求める声が大きかったからと言えます。 10mの誤差と言え大いに活用可能なものではありましたが、 その有用性が認められるに連れ精度の向上の期待が高まったのも確かなのです。
日本版GPS衛星の登場
高まる要望を受けて JAXA(宇宙航空研究開発機構)が2010年9月11日打ち上げ成功 したのが日本版GPSとも言える 準天頂衛星初号機みちびき です。 みちびきについては上のリンク内にも様々解説がなされていますが、 コージー林田さんがMobile Todayの2011年9月5日の記事 誤差はほんの数センチ。僕らの生活を変えるかもしれない国産GPS「みちびき」がすごい! で分かり易く説明してくれています。 特に重要なのが 準天頂衛星システム についての説明部分である以下引用でしょう。
このシステムは、日本付近の天頂方向に常時衛星が見えるように、 複数の衛星を準天頂軌道に配置するというもの。 JAXAのプロジェクトマネージャー寺田弘慈氏によると、 「山間地、ビル陰に影響されず、全国をほぼ100%カバーする高精度の測位サービスの提供を実現します」とのことです。 しかも、天頂にあるので、その誤差は数cmとほぼピンポイントでの位置測定が可能10mに比し何桁も精度のオーダーが上がった誤差数cmとは驚きで、 正しくピンポイントでの位置測定が実現されることになります。 但しこの24時間体制での高精度測位実現には4基の衛星を代わる代わる必要とするため 最低でもあと3基の打ち上げが必要になるとのことです。
準天頂衛星システムについては国土交通省の国土技術政策総合研究所でも検討がなされており 中低速移動体へのRTK-GPS適用化技術の開発 というサイトで情報が公開されてもいます。 興味のある方はご参照下さい。
日本版GPSで10兆円規模の新産業創出との予測
2011年9月30日には高精度測位への高まる要望を受けて、 日本版GPSは、2010年代後半には4機態勢を整備した上で、 将来的には上記の米国GPSに頼らない日本独自のシステムにする為に7機での態勢を目指すことが 政府の宇宙開発戦略本部で決定し、その後、閣議決定されました。
この閣議決定以前の世の盛り上がりを知らせてくれる記事が JCASTニュースの2011年8月15日の記事 夢の30兆円ビジネス 「日本版GPS」、本格スタートできるか です。 上記みちびきの結果が良好なことが与って力があることを伝えてくれています。 この年、2011年3月の未曾有の東北大震災の発生によって 災害時への対応としての利用も考慮されているのは当然でしょう。 記事内ではJAXAが精度について 2.6メートル以内としていた目標を上回る1~1.5メートル と数cmとは行きませんが米国より一桁オーダーが高まったことを知らせる発表を行ったことも掲載されています。 経済産業省も11年6月末、GPSを活用した新産業を創出するための官民一体の研究会を設立し、 そのメンバーには
- 三菱電機
- ホンダ
- JR北海道
- 三菱重工業
- NEC
- コマツ
高まる期待に日本版GPSに申請を大幅に上回る予算付与
毎日新聞が2011年12月24日に伝える 12年度予算案:「はやぶさ2」に30億円、打ち上げにめど 要求の半分以下 では人気の高いはやぶさについては残念ながら 政府の閣議決定した12年度予算案に於ける 予算は文科省要求の半分以下に抑えられてしまったものの 日本版GPS構築に於いてシステムを担う準天頂衛星については 内閣府の要求額41億円を大幅に上回る106億円が付けられたことが報じられています。
決してはやぶさに価値がない訳ではなく しかし中長期的な効果を見込むプロジェクトに対し、 この不況下に即効的な見返りが望める日本版GPS構築プロジェクトに 限りの有る予算に於いて重きが置かれたのであると考えます。
IT産業にも大きなインパクトを持つ日本版GPS
GPSは測位システムとしてのデータを得られる1次情報リソースであり、 情報技術、ITの一端であるとも考えられます。 これがIT産業にも大きな影響を与えない筈がありません。 冒頭に記したようにGPSは近年小型化され、携帯電話、スマートフォンなど モバイル環境にも容易に搭載される環境が整いました。 肌身離さず携帯の利くモバイル環境に搭載されるとは即ち、 個人に対して容易に位置情報サービスが可能になると言うことでもあります。 モバイル環境はスマートフォンに見られるように今や 昔の高性能コンピュータ並みの性能を持ちます。 従って GIS(Geographic Information System:地理情報システム) と連携するなどして大きなビジネスとしての展開が期待されてもいて、 既に実用段階にも入り様々なITサービスが展開されています。
日本版GPSが具体的予算付けされ近い将来 今の精度から一桁オーダーが上がることが確実となった今、 更なる位置情報サービスの競争が激化することになるでしょう。 IT産業は今や挙って読者貴兄への位置情報サービスの供給の旗手たらんと 虎視眈々と策を練り、展開を図っているのです。
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