オープンストリートマップ~地図情報を舞台としたIT覇権争い

去年2011年3月に発生した 未曾有の大震災 (2011年3月15日記事) 大きな爪跡を残しまだまだ日本はその余波の中にあり、 復興からエネルギー問題など、それは語られない日はありません。 同じ様にして問題の提起されている分野には地図情報があります。

災害を考慮した時必要なGISとは

大地震直後の影響下にある中に時々刻々と移り変わる 3月15日記事中にもあるように、 移動利用可能な道路の情報を提供してくれた Google社と本田技研工業株式会社の協業の産物 自動車・通行実績情報マップ など、大いに評価されたのは記憶に新しいところです。

自動車・通行実績情報マップにも欠かせないのが基本的な地図情報であり 此処ではGoogle社の提供するGoogleマップがその重要な役目を担います。 Googleマップについては本ブログ2012年1月17日にも Googleマップの登場とGIS として稿を起こしました。 記事内には同時に GIS(Geographic Information System:地理情報システム) の概念を取り扱っています。 Wikipedia及び国土交通省国土地理院から引用していますが、 ここにそれらを本ブログ運営者的に約めれば…

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近年高度に発達し膨大な情報を扱えるようになったコンピュータに於いて 地図情報を基本としてその上に様々なメタ情報を付加することで 便宜に応じて簡便に必要な情報を取り出せるシステム として好いだろうと考えます。 大震災に関連したGISの利用例としては 本ブログ2011年8月21日の記事 インターネットで閲覧出来る活断層マップ にある国土地理院の活断層マップもその一つでしょう。

地図情報の使用時に於ける問題

このように災害時には切実に必要とされるGISは 他分野でもその需要が高まっていますが、 様々なメタ情報を載せる為の母体たる地図情報は中にも基本的情報として欠かせません。

しかしこの地図情報を利用したい際には様々な問題が発生し、その一つが権利問題です。 勿論地図情報にはその利用者がいれば対極には作成者、権利保持者が存在する訳で 権利保持者の意向に逆らって使用することは出来ません。 実例を一つ挙げるとGoogleマップに於ける使用料があります。 本ブログ2011年10月28日 Googleマップを使うと料金が掛かる? で稿を起こした内容はと言えば Google Map API(プログラム的にGoogleマップにアクセスする窓口) を使用する際、ある条件に適合すると課金が発生すると言うことです。 冒頭に挙げた事例でも活躍する実に有用なGoogleマップですし 正当な利用料を支払うことは当然のことながら どれだけ使えばどれだけのコストが発生するのか事前に調べたりする必要や 使用に関しての契約が発生したりと 煩雑さが込み入ってしまえば矢張り敷居も上がらざるを得ないでしょう。

オープンストリートマップとは

この問題をクリアーすることも立ち上げ時の要因の一つと言えるでしょう。 地図情報のオープンソース的プロジェクトが存在し其の名前を OpenStreetMap(オープンストリートマップ) と言い、 日本語版 も有志により用意されています。

自然環境保全と地域自治のためにオープンソースGISの活用を促進するための GeoPacific.org-ジオパシフィック というサイト内には wiki.openstreetmap 日本語化プロジェクト という活動の中で大震災等についての翻訳が望まれている旨しるされており、 上で述べた災害時のGISの必要性と合わせ興味深く思います。 その日本語化の希求されているページは地図情報サイトである オープンストリートマップなのです。

オープンストリートマップでは誤解を恐れず 平たく言えば利用者と作成者が異なって権利問題が発生するならば 利用者と作成者を一緒にしてしまえ、とでもなるでしょうか。 オープンストリートマップ日本語版サイトにも 誰でも自由に参加して、誰でも自由に編集でき、誰でも自由に利用する事が出来ます。 と謳われています。 勿論普通は大抵の組織に、では地図を作成してくれ給え、と依頼しても無理な話しです。 しかし世はインターネット時代、このプロジェクトに於いて、さあ皆で作ろうよ、 となった状況を受け止めるシステムが用意されているとなれば可能となる話しなのです。 それぞれが暮らしていれば近所の地理には明るくなることは当たり前です。 それではその知識を皆でシェアすれば、 用意された地図にそのまま知ってるだけの範囲を描き込んで行けば 世界地図が出来上がるじゃないか、という寸法です。

これが集合知の威力と言えるでしょう。 集合知と言えば皆で拵えるオンライン百科事典Wikipediaが有名ですが、 オープンストリートマップは地図版wikiとも呼ばれています。

オープンストリートマップに参加するには

では何処で地図作成に参加するのか、 オープンストリートマップには当然の如く編集用のページが用意されており 以下に当該サイトの日本語版に表示を切り替えたリンクを用意しました。 OpenStreetMapにようこそ:JA:Main Page サイトには 日本でのOSMについて というページも用意されていて 簡単な参加のしかた という項目立てもされていますね。 注意事項 としてくれぐれも参加の際にはGoogleマップなどの権利関係に抵触する恐れのある データの利用を避けるように言及されている部分も特徴的です。

多くの方が参加することに依ってどうなるのか、 TechCrunch2010年4月20日の記事 OpenStreetMapは‘地図のWikipedia’–Google Mapsより圧倒的に詳しい は記事タイトルも刺激的ですが中にも実例としての 2007年には白地図が2010年には道路は言うに及ばず、 水路、果ては立ち木迄が段々と詳細に書き込まれて行く工程を示した ドイツの事例に驚きを禁じ得ません。

TechCrunch記事ではまたオープンストリートマップについて 2004年開始であること、 去年2011年に11万人であった貢献者が今日では24万5千人に増えていること、 平均して1時間に7千件の編集がデータに対して施されていること などの情報を齎してくれ、 iPhoneやAndoroid機を所有している方用に参加の為 アプリが用意されているページへのリンクも記されています。

地図情報を巡るきな臭い状況

順調に見えるオープンストリートマッププロジェクトですが、 好ましくない状況を示す情報もネットには見られます。 それはWIREDジャパンの2012年1月21日の記事 オープンソースの地図プロジェクト、Google関係者によるデータ改ざんを主張 で、オープンストリートマッププロジェクト関係のデータに Google関係者から不正アクセスがあったことを伝えてくれます。 Googleからの指示に因る実行とも思えませんが GoogleはGoogleマップと言うリソースを有し それをマネタイズする計画も垣間見えますから穏やかではありません。

オープンストリートマップ側とGoogle側には少々殺気立つ遣り取りも発生しているようで、 利用者から見れば相互に協力し合って最早インターネットに欠くべからざる 地図情報を充実したものにして欲しく思う処、残念なことです。

WIREDジャパン記事の末尾には オープンストリートマッププロジェクトを運営する英国に拠点をおく非営利組織が Googleと競合するマイクロソフト社やAOL傘下のMapQuestから資金やハードウェア、 データの提供を受けていること、 同プロジェクトを立ち上げたSteve Coast氏はマイクロソフト社で 検索エンジンBingのモバイル版開発チームに所属することで 給与を受け取っていること、 などに言及され多少きな臭い関係も見え隠れします。

IT業界の覇権を巡る難しい関係も抱えつつも 此れからの時代益々必要とされる地図情報に於いて 協力が無理な話であればせめて互いに競争し合うことで 世に有益な事業として欲しいと切に願います。

7件のコメント

  1. リアルタイム災害位置情報サービスGoogle Public Alerts

    災害時に於ける位置情報サービスが重要であることは本ブログにも度々、例えば東北地方太平洋沖地震(2011年3月15日)インターネットで閲覧出来る活断層マップ(2011年8月21日)オープンストリートマップ~地図情報を舞台としたIT覇権争い(2012年1月24日)などに言及した処で

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