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iPhoneは電話です。 余りに馬鹿馬鹿しい命題のように感じますが、屡等閑にされてもいるようです。 OSがどうの、アプリがどうの、スキューモーフィックだのフラットだののデザインがどうのこうの… 発売される度に其処等のIT系のオンラインメディアやブログに踊る内容は浮世離れした感も有り哉、無し哉。 昭和の黒電話に被せたフリルか室内愛玩犬のパンツなんぞじゃないんですから滑稽なカバーなんぞも要らんでしょう。 UIだのUXだのは裏原の鯔背なカリスマデザイナー辺りが曰ふもんじゃありません。 確りした技術の裏付けあってこそ機能として備わるべきものです。 電話のUI/UXは如何なるべきものか、確り通話の成るべきことに論を俟ちません。 而して電話に重要な機能として捉えられるべきであるのが ノイズ・キャンセリング ・システムです。
旧機種ガラケーユーザーiPhone5s通話品質に驚きを禁じ得ず
去る2013年11月18日、 ドコモで5つの理由を以てガラケーからiPhone5sに機種変更 して以来、先ず驚かされたのが翌々日の記事 ドコモでガラケーからiPhone5sに機種変更する際掛かる費用の一実例 にも冒頭に記した其の通話品質でした。
携帯電話と名乗るくらいですから何時でも静かな自宅で電話してる訳がありません。 雑踏や人混み、道路脇に寄り合い会場など、様々な雑音の混じる場所での通話の方が多いくらいです。 喫茶店などでは屡席を外し、扉の内外に陣取って通話している様子なども見掛け、 人声に紛れて段々と己のボリュームを上げ始める御仁にと隣り合わせては堪ったもんじゃありません。
ガラケー時には此の如き様相を呈せしめた其の原因は 通話時の相手の声の聞き取り難さに他なりません。 通話相手に因っては余りに聞き返しの回数も増え、 孰れ周囲にも迷惑を掛けぬように後程掛け直しの約束をして切ったりもしたものです。
処がiPhone5sに機種変更してからは 例え子供達が賑やかなファミリーレストランの席上に在っても穏やかに通話の進行するのに驚きを禁じ得ませんでした。 以前は声量不足も有っての聞き取り難さに些か苛苛もしてしまった商談相手に於いても 殊iPhone5sで以てすれば凡そ不足の無い通話品質が得られたのです。
iPhone5から搭載されたノイズキャンセラー
此れに与って力の有ったのがノイズ・キャンセリング・システムで、 読んで直訳の如し、雑音を消去する機構に他なりません。 此の機構は一世代前のiPhone5から搭載されたものです。
処が冒頭にも述べたように、 此の機構に付いて言及しているブログなどの記事は 本記事冒頭にも記した如く管見に見当たりません。 数多のiPhone関連記事の書き手は最早iPhoneを通話機器として利用していないかの如くであって、 であれば何もiPhoneでなくiPodでも宜しいだろうと思われるものばかりです。
アンドロイド端末とノイズキャンセラー
但しノイズ・キャンセラーはiPhoneに限った機構ではなく、アンドロイドで搭載されている端末も多いようで、 iPhoneは此の機構に限っては後発と迄は言えませんが最先端ではないのかも知れません。 例えばソニー製アンドロイドスマートフォン端末Xperiaに関する去年年末の記事 〔※1〕 を見ればXperia自体への搭載は無いものの、同社Walkmanシリーズには以前から搭載されており、 Xperiaへの搭載も予定されている旨言及され、現行機種には実搭載されている様子です。
多少内容の錯綜した2011年の記事 〔※3〕 ではありますが、富士通製のらくらくホンシリーズを初めとして 幾つかのノイズキャンセリングシステム搭載のスマートフォン端末が紹介されてもいます。
頃日にはBOSE社のノイズ・キャンセリング機構を搭載したイヤフォンとも称して宜しい QuietComfort 20 がインナーイヤー型ヘッドフォンとして画期の旨、伝える記事 〔※2〕 が多くネット上にも散見され、比較的歴史の浅いカナル型は勿論、 ヘッドフォンと言えば想起されるオーバーヘッド型に於いては歴史のある機構ではあるのでした。
斯くして周囲の雑音をカットするノイズ・キャンセラーと言う機構自体の概念が古くあるに、 翻って見れば市場をリードするiPhoneにノイズ・キャンセラーの搭載された今、 無搭載のアンドロイド端末などは通話機器として凡そ使うに値しないものと考えられもするでしょう。
ハムバッカーの原理
ではノイズ・キャンセリング・システムとは如何にして周囲の雑音を除去し得るか、 此れに関して参考にエレキギターのピックアップを見てみましょう。
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エレキギターのピックアップでは震える弦が掻き乱した磁界の変化を傍らの磁石が嗅ぎ取るに依って 磁石を囲むコイルに電流を起さしめます。 音が電気信号へと変換される瞬間です。 処が弦の振動ならぬ外部の電界の変化、例えば交流電源の周波数ノイズなども拾ってしまう仕儀となるのでした。 電気信号をアンプリファイドして爆音足らしめるエレキギターに此の現象は面白くありません。 其処で考案されたのがハムバッキングシステムなるノイズキャンセラーです。
従来は弦数に対応した数の磁石と其れを取り囲むコイルの1セットで構成されたピックアップは シングル・ピックアップ とも呼ばれます。 屡ハムバッカーとも呼ばれる新規考案のハムバッキングピックアップに於いては此れを2セット用います。 電気信号は波形を為し、互いに逆転した振幅を干渉させれば掻き消されます。 其処で2セットのピックアップが同時に拾う外部ノイズを電流を正負逆に接続させて除去して遣ろうと言う目論見なのでした。
しかし此れではノイズが除去されると共に折角拾った弦振動も消えてしまいます。 此れを解決するに2セットのピックアップの磁石のN極とS極も引っ繰り返せば、 電流も磁界も逆転し今度は互いに干渉し合って倍の振幅を得られる勘定となります。
此の機構は特許出願され、採用したピックアップはPatent Applied For(特許出願中)を以て PAF ピックアップと呼ばれGibson社のレスポールに搭載されました。 此の発売年が1957年ですから2013年の今、56年を閲しているのでした。
iPhoneに於けるハムバッカー原理のデジタル的応用の推測
以上エレキギターのノイズキャンセリングシステムであるハムバッカーは極めてアナログな機構ですが、 此の考えをコンピュータライズし、デジタル的に応用したものがiPhone5/5sのノイズキャンセラーとして 採用されているのではないかと推測するものです。
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iPhoneの情報を配信して人気のサイトAppBankの2013年4月7日の記事 〔※4〕 ではiPhone5には3つのマイクが搭載されており、其れは以下とされます。
- 底面
- 受話器内部
- 背面カメラレンズとフラッシュの間
一見すると底面は兎も角、通話に丸で関係の無い位置にもマイクが搭載されているのが分かります。 此の3つのマイクを以てノイズキャンセリングを実現せしめていると同記事は報告しています。 実現するノイズキャンセリングの種類としては 相手の声を聞き易くするだけでなく自分の声をクリアーに相手に届ける、とも記されています。
当該記事には機構詳細への言及がなくアップル社の仕様を確かめている訳ではありませんので 飽く迄推測に過ぎないのですが、恐らくは3つのマイクの位置関係からノイズキャンセリングを実現しているものと思われます。
極く単純に考えれば即ち底面が拾うマイクは通話者の声であれば此れこそ届けるべき信号であり、 スピーカー脇及び背面に配置されたマイクから検出された信号は基本的に届けてはならぬもので、 此れが底面からも同時に検出されれば此の信号をノイズとして除去すれば良い訳です。
アナログ方式に於いては逆位相を以て打ち消すも、 ことデジタルとなればノイズ信号を送信信号から減算すればいいのですから、 ノイズの特定のなれば理屈だけではアナログ時より簡単なものとなるでしょう。 発想に於いてはアナログ方式のスマートさが目立ち、 デジタル方式では如何せん力技と成り勝ちですが、 複数マイクの検出信号比較を以て通信内容に不要なノイズを特定し音波を相殺させる、 と言う基本的な考え方は同様だと思われます 送信信号に於けるノイズキャンセリングを実現しているのは同様のものと推測します。 即ち相手の声を聞き取るべき受信時に於いては特定のなったノイズ信号と 逆位相の信号を受信信号に乗せてやれば良い理屈で、 極々単純に言えば送信時と同じく受信信号からノイズ信号を減算して出力してやれば、 受信信号とノイズ信号が合わさって元の信号が再現され、 恰も相手の声がクリアーに聞こえる効果を生み出すのでしょう。
ガラケーで実現出来なかった理由
愈々スマートフォンの代表たるiPhoneへの搭載に依って 携帯電話に於けるノイズキャンセリングシステムは必須のものとなった感がありますが、 では何故旧ガラケーユーザーは今更此の機構に驚く仕儀と相成ったのでしょう。
ノイズキャンセル自体は以上のように古い技術ですから、 アナログ時代に出来たものがデジタル化されれば尚実現は容易だろう、 と実は前々からSNSなどのガラケーの通話品質について時折強めの文句を漏らしてもいました。 素人ですらそう考える状況に携帯電話開発者が思い至らぬ筈もありません。
恐らくはガラケーはスマートフォンには及ぶべくもないアナログ的な代物なのだと思われます。 だからと言ってエレキギター宜しく大きなピックアップを重ねる手法が通用する筈もありません。 多くの物理的なアナログボタンも搭載すれば、デジタルに割く余地は少なかったのではないかと思われます。 アナログからデジタルへの端境期の機種とも言えるかも知れません。
此れが一端iPhone形式のスマートフォンとなればインターフェースは大凡タッチパネルに集約され、 殆どの機能はソフトウェアで実装され、其のコンピュータライズはガラケーの及ぶべくもない処となりました。 例え単純な減算処理にしろ此れをリアルタイムで熟すとなれば相当の処理能力が必要です。 コンピュータ処理を司るエンジンたる中央演算処理装置は高速化し、 力技とならざるを得ないノイズキャンセル機構を処理して尚余力を有す充分なものとなったのでしょう。
iPhone5sに於ける音声ノイズキャンセリング設定
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而してiPhone5sを入手して最も先に実施すべきは、 可笑しなブロガーの進めるアプリ100選だかのインストールなどではなくて、 電話ノイズキャンセリング の設定項目の確認になります。
iPhone5sに於いては其の設定は正しく 設定 アイコンから進んだ先に用意されていますのでタップしましょう。 すると 一般 項目が見付かりますのでタップします。 遷移した画面には アクセシビリティ 項目がありますから此れもタップします。 すると右の図の如き画面に遷移します。
アクセシビリティ設定画面には視覚サポートの後に 聴覚サポート 項目が用意されており其の一項目が 電話ノイズキャンセリング となり本記事で紹介した機能のオン・オフを設定するものとなっています。 従って此れが図の如く緑色の見えるオン状態になっていなければ オンに設定を切り替えておくのがiPhoneを携帯電話として使用するに好適となり、 冒頭の命題の真なることを実感するでしょう。
参考URL(※)- 開発陣に聞く「Xperia VL SOL21」:誰もが簡単・快適に使いこなせる――「Xperia VL SOL21」に込めたシンプル(ITmedia Mobile:2012年12月26日)
- インナー型でも航空機の轟音をかき消してくれる:Bose「QuietComfort 20」(WIRED.jp:2013年9月27日)
- 第528回:ノイズキャンセリングとは(ケータイ Watch:2011年8月23日)
- iPhone 5に搭載されている「3つのマイク」の役割とは? - たのしいiPhone!(AppBank:2013年4月7日)
今晩は。想像通りのキャンセルシステムですね。PAでもマイクを二本セットして片方の位相を反転してミックスし、バックの大音量を打ち消してヴォーカルを活かすやり方をした事を懐かしく思い出しました。
それではまた。