高音質保証!麻倉式PCオーディオ~書評

PCオーディオへの汲めども尽きぬ湧き出る興味から、 書肆に足を運べば知らず知らず関連書籍へ気を遣る己に気付く本ブログ運営者です。 さて、そんな状況の中新書の棚に見付けたのが本書です。

高音質保証! 麻倉式PCオーディオ (アスキー新書)

著者はオーディオ・ビジュアル評論家として地歩を築かれている方で、 本書帯には AV評論の第一人者 として記されています。

先ず、本書を一言で言えば 高音質への憧憬 と言えるでしょう。 または追求といっていいかも知れません。 何処まで行っても見果てぬ高音質への旅と言えるのかも知れません。 従来のオーディオファンも高音質を追求すれば 関与せざるを得ない、それが PCオーディオ の世界であるとも言えるでしょう。 そしてそれは恐らく古くからのオーディオファンからずっと 通底する姿勢なのだと思います。 換言すれば PCオーディオは高音質であるからこそ取り組まれる とも言えるでしょう。 本書の随所からその想いが溢れ出ているように思います。 表紙カバー裏にはそれを示すように 実は、パソコンはこれまでのオーディオを大きく凌駕する高音質が得られる”究極のオーディオ機器”です。 とも表現されています。

本書は…

スポンサーリンク

少しはPCオーディオの世界に馴れない者への配慮が伺えますが、 どちらかと言えばオーディオの世界に馴れないギークに向けたと言うより、 ITの世界に馴れないオーディオファンに向けたものと考えた方が好いでしょう。 オーディオファンに向けた現代のオーディオブックと考えれば無理がないかも知れません。 しかしその姿勢はパソコンをオーディオ専用にして憚らないなど、 パソコンよりの人間にすると少し不可解な点があることも否めません。 その意味ではPCオーディオの語感から受けるような パソコンとオーディオの融合的な印象で本書を捕らえると 少し違った感覚を受けることになるでしょう。

趣味の本特有の胡乱な感じ…と言うと語弊があるですが、 それに似た少々疑義を差し挟まざるを得ない感覚はどうしても付き纏います。 例えば車雑誌でコーナーでのスタビリティだの直進安定性だの 心地好い振動、エンジンの咆哮…などを編集者が口が乗って喋っているのを聞くのと同じ感覚、 と言えば返って分かり難いですか(笑) ソムリエなどはボキャブラリーの豊富さも重要だということですから、 オーディオ評価にはそれに類似する表現の豊かさを追求されているのだと思います。 聞く人が聞けば的確な音を彷彿とさせる表現なのでしょう。 同時に自分で設定した環境を分かっていながら それに定量的な評価を下してしまう、と言う思い切りの良さは、 恐らくオーディオファンの世界では当然のことなのでしょうが、 見習う点も有るように感じました。

オーディオファンをターゲットに或る程度の関連知識は有したことを前提にした本書ではありますが、 矢張り壷は押さえられており、 PCオーディオの入力から出力に至る流れを追った 第2章から第4章などは読めばPCオーディオが如何なるものかの概観が掴めるように配慮されていると思います。

第5章ではネットワークオーディオの概念がその提唱企業である LINN(リン)ともに説明され、そうとは書かれませんが、 IT関係者から見れば これこそPCオーディオ専用パソコンを先鋭化させてものだと言えるでしょう。 (メーカーはリンではありませんが米シリコンバレーの新興メーカー オリーブ 製の機種に特に顕著です。) この章では LINNジャパン山口社長のインタビューに聞くことが出来る 初代と二代目とオーディオ機器メーカーとして定評のあった同社が ネットワークへと舵を切る経緯などが興味深く面白いですね。 続く6章にはオーディオファンにはお馴染みと思われる使いこなし術が語られます。 電源やケーブル、振動対策のインシュレーターに関する話題などです。

第7章に於いては本ブログにも2011年8月28日 ハイレゾ音源をダウンロードしてiPadで楽しむ で扱ったハイレゾ音源の配信についてです。 定評のあるハイレゾ音源配信業者のいくつかが紹介されていて役に立つでしょう。 DRM や DSD などのソフトウェア技術的な内容にも少し触れられています。 そして最終章第8章はコンポーネントについてですが、 主にアンプとスピーカ、前章迄で PCオーディオの肝たる入力側の内容を受けた 出力側に振られた話になります。 第6章と同様に従来のオーディオファン的テクニックの発揮出来る場でもあります。

中にも興味深いのが71頁から82頁の11頁に渡る Windowsの音声処理方式はこう変わった と題された囲み記事形式の著者麻倉怜士氏に拠る 元マイクロソフト、現コーレル社の 川手雅之 氏へのインタビューです。 Windowsの音声処理に関する開発者直接の言及は 余所ではなかなかお目に掛かれないものと思います。 同じ様に記事が罫線で囲まれる装飾のされた件は、 IT関係者にはお馴染みのボキャブラリーも頻繁で、 本書中にも納得感が高く親しみ易い内容となっているでしょう。 Windows音声処理方式の他に アップコンバート や、音の良いUSBインターフェースとは?と題されてはいますが 信号の同期方式 に関する内容のものが用意されています。 他にも随所にAV評論家の第一人者たる著者に拠る 第一線の技術者へのインタビューが随所に盛り込まれていて それらは取り分け本ブログ運営者にも楽しい部分でもありました。

跋文には PCオーディオ趣味に誘わしめる素敵な一文が有りますので引用して 少し長めになりましたこの書評を締めくくりたいと思います。

パソコンオーディオは、往年のファンにとっては、 かつて熱中した自作オーディオの復活であり、 ネットワーク世代の若いファンにとっては、 ITリテラシーがそのまま活きる楽しい趣味です。

1件のコメント

  1. 山水電気倒産~時代への適合適わず民事再生法申請

    残念ながら老舗オーディオメーカー山水電気株式会社は昨日2012年4月2日、東京地方裁判所に民事再生手続開始の申し立てを行ない、同日に受理されたと発表しました。山水電気の設立同社は1944年12月に菊池幸作氏により開設された山水電気製作所が1947年6月に山水電気株式会社に

コメントは受け付けていません。