浅知恵で地名を変えるべきではない理由~Yahoo!G-Banz

デベロッパーネットワークTech Blogの2012年2月 3日の記事 防災・減災にAndroidアプリ「G-Banz」を役立てよう で紹介されるAndroidアプリ G-Banz(じーばんず) はとても面白い試みだと思います。 一言でアプリを表すには 地盤採点アプリ とされます。

地盤採点アプリG-Banz

G-BanzはYahoo!社内に設けられた賞を受賞した上で改良し 数ヶ月を経て外部向けに配信されるに至ったとされています。 機能は直接訪れる、地図上で指定、住所入力等により指定された場所の 大凡の地形を判定、そこから予想される地盤の状態を 独自のアルゴリズムで採点して得点形式で表示するもので、 前日時点の集計データを元に全国順位を表示することも出来るそうです。

自分の住んでいる場所等液状化、地盤沈下の起こり易い沖積低地にあたるかどうかを知ることは、 防災・減災に向けて非常に有効な情報で、これをスムーズかつ分かりやすい形でユーザーに伝えるたい、 というのがアプリ企画の意図とされています。 地盤を採点すると言うこのアプリも去年2011年3月の 未曾有の大震災が齎したものと言えるのかも知れません。

採点時の基準は…

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当該アプリについて用意される 使い方ページ「地盤しっかり度」のアルゴリズムについて に説明されています。

採点判定項目に於ける地名

ポイントとランクのための判定項目は4つ、 以下の様に列挙されます。

  1. 標高判定
  2. 水面判定
  3. 起伏判定
  4. 地名判定
本記事で注目したいのは4番の 地名判定 です。 当該項目説明部分を引用します。
地名に地盤(地形)との関連性の高い漢字が含まれていた場合、 その漢字によりポイントを計算しています。 強固地盤に関連すれば加点、軟弱地盤であれば減点となります。 ポイントは標高により次の範囲となっています(対象となる漢字とポイント配分については、 当社の全国町大字データについて調査した結果を反映しています)。
全国町大字データを社内に有するのは流石に本ブログ2012年2月17日記事 Google、Yahoo、Bingの地図データとゼンリン社 に記したようにアルプス社の資産を保有するYahoo!社の面目躍如たるところが感じられます。

地名に含まれる漢字の意味

さて、では何故、土地の名前が地盤を評価する項目となり得るのでしょう? Web R25の2011年10月14日の記事に 古地図を読み解けば、地盤がわかる? があります。 此処に端的に解説がなされています。 即ち、川、池、沼、葦、亀などを含む地名ではもともと 水が集まりやすい低地や湿地帯であったと考えられ地盤が軟弱な可能性が高く、 またその逆に山、台、森などでは古くから高台に存在する地名であることが多く、 地盤が強い蓋然性が高いのです。

地震被災建築物応急危険度判定士の村中泰雄氏の提供されるPDFファイル 地域の特性と耐震性。 を閲してもよく分かります。 此方にも液状化を起こし易い地名に含まれる漢字が挙げられていますので R25記事と重複しないところで記せば 灘、浦、滝、谷、瀬、潟、窪、須、原、田、島 などが見られます。

浅はかな地名変更

しかし近年地名に於いて問題が発生しています。 それはWeb R25記事に言及のある闇雲な市町村合併や大規模開発、 埋め立てなどで、地名の変更が多々見られるに於いて、 その際の地名変更は必ずしも状況に適したものでないことが大問題です。 新しく付けられる地名は似非有識者に公募、行政の担当官など 適切な知見を持たぬとしか思えない情緒的、最早おままごと的と言っていいでしょう、 希望ヶ丘なりぴかりなんちゃらだかタウンなりオレンジなんなりタウンなどなど 今時とでも言うのでしょうか、似非文化的な命名がなされることが多く見られます。 これが非道く厄介なのは言うまでも言う迄もないでしょう。

市町村合併から区画整理まで、 近代から近年に掛けて行政の都合に因る滅茶苦茶な地名変更が行われてしまったことが いざ災害の発生した際には恐るべき問題を内包していることを看過すべきではありません。

また一度に行政に責を負うのも片手落ち、 団塊の世代以降には地名に字(あざ)の付くのを嫌う傾向が見られたことも確かです。 これらの人々の無言の圧力があったことも否めないでしょう。 実に残念なことです。

徒な地名変更への対応策

そうは言っても既になされてしまったものを再び元に返すのにも多大な力が必要です。 個人では如何ともし難いでしょう。 その意味でも本記事に取り上げる G-Banzは意味があるものと考えます。

G-Banzが地盤評価の根拠の一つとする地名を得るに 社内リソースの全国町大字データを使用していました。 ではそれを直接使い得ない吾人はどうすれば良いでしょう? 解決策はWeb25R記事にも村中氏のPDFファイルに於いても示されています。 それが 古地図 です。

土地の図書館に出向けば大抵当該地の古地図の用意があるのでそれを利用すべし、 という村中氏の言は本ブログ運営者も幾度か実践し首肯する処です。 またWeb R25記事では日本地図センターへの問い掛けで どのくらい古い地図が入手可能か、としています。 日本地図センター とは国土地理院が発行する地図の提供などを手掛ける財団法人で 本ブログでも2012年2月17日の記事 Google、Yahoo、Bingの地図データとゼンリン社 のマイクロソフトの場合の段でオフィスソフト関連の地図データの監修を 務めている旨、取り上げました。 古地図を問われるに

当センターでは、明治10年代に作成された『明治前期測量2万分1フランス式彩色地図」(関東地方の一部分)や『五千分一東京図測量原図」(東京の中心部)などを扱っています。これらの地図は、明治以降の近代測量によって作成された地図であり、精度的にも優れたものといえます
と答えられているのが参考になるでしょう。

守られるべき先人の知恵

地名と言うのは先人の知恵です。 地名には土地の歴史や状況が鮮やかに詰め込まれています。 それら先人が蓄えた豊かな情報を受け渡し得るのが地名なのです。 徒や疎かに扱っていいものではないのです。

矢鱈新しいものを有り難がって古いものを邪険に扱う態度は 此処に至れば非常に危険な事態を惹き起こします。 字などの地名は決して失って良いものではありません。 特に行政等に携わる関係者には強くこれを意識して欲しいものと切望しています。

地名は豊かな情報を包含しています。 敢えて情報処理技術者として地名が軽く扱われる事態に警鐘を鳴らしたく思うのです。