昨日2012年1月5日に記事にした 目から鱗のスタバ本~出版界起死回生の一手 に於いて参照した日経ビジネス2012年1月4日の橘川幸夫氏の寄稿 大ヒット続ける「スタバ本」の新たな発想 ~ これまでになかったタイアップの構造とは は非常に示唆深い内容であるように思います。 昨日の記事では主にスターバックス・アートブック 、即ち スタバ本 を取り上げ、出版社、取次ぎ、書店の三者連携の妙手として紹介しました。 これとは別に橘川氏の稿からは三者の中にも特に書店について興味深い進展が見て取れます。
データから見られる書店の大規模化
先ず書店というリアル店舗の物理的な形態を見てみます。 すると…
6年で4000店舗近くが廃業もしくは閉鎖されたのにも関わらず売り場面積は逆に増加していることで 大規模書店化 の進行が見て取れるというのです。 このデータは日販経営相談センター発行の 出版物販売額の実態 から得られるもので、他にも 出版販売ルート別の推定販売額 10年間推移:日本著書販促センター に於いては書店の他にも
- CVS(コンビニエンス)ルート
- インターネットルート(2007年より開始)
- 駅売店ルート
- スタンドルート
- 生協ルート
- 割賦(2006年にて終了)
書店の大規模化については 書店数とその坪数推移をグラフ化してみる(2011年「出版物販売額の実態」版) に於いては更に詳細に踏み込んで解説されており 書店の集約化・大型化 は疑うべくもない処であり、更にはこの傾向は少なくとも20~30年前から起きていたとされます。
書店リアル店舗とオンライン書店との異なる性質
無目的に入店して陳列棚の背表紙を眺めるだけで満足することも少なくない本ブログ運営者としては 書店においては橘川氏の稿に有る通り先ず入店が先で 店内に入ってから購入商品を探すアクティビティを示すリアル書店に対し、 オンライン書店では書名ピンポイントで決め打ちの 購入アクティビティを示す傾向があるとされることに大いに首肯せしめられる処です。
するとリアル店舗としての書店では入店してからの潜在顧客に対する 購買訴求の効果的な方法を投げ掛ける必要があります。 橘川氏の稿に確り インストア・マーケティングの大きな可能性 と章立てられる処です。
またリアル書店が持つ他の店舗に比較して多品種の品揃えであることに加え、 毎日新商品が入荷するという特徴はショッピングモールをして集客効果の点から、 それは衝動買いを誘惑する消費の喜びを満たす、と表現されますが、 入居条件を低めに設定してさえ入居は必須であり外すことは出来ない、としています。
インストアマーケティングを効果的に実施する点に於いても、 ショッピングモールの有力な一角を占めるという意味でも、 リアル店舗書店は大規模店舗化する必要があるのかも知れません。
インストアマーケティングの様々な手法
先ずは雑誌の付録が上げられています。 1月5日の記事のスタバ本に於けるビバレッジカードもその類に属します。 橘川氏の稿ではこれよりスタバ本に論が展開していくという構成になっています。 この販促方法として優秀な付録付きの雑誌が平台を埋めたコーナーを その付録の種類、本の種類等でカテゴライズし、 然るべき目的に添って設営すれば立派なインストアマーケティングと言えるでしょう。
次にヴィレッジヴァンガードのビジネスモデルが上げられています。 通常書店にはあまり見られないマニアックなサブカル本などの品揃えを充実させ 敢えて収益の低い書籍販売はターゲットと目する若者の集客を目的とし、 それに依って誘引した顧客に雑貨や家庭用品などを販売することで利益をあげるのだと言います。 インストアマーケティングを全体最適化した事例とも言えるでしょう。 これなど従来の書店では存在しない人材が必要となりますが、 厳しい状況下にある書店の進むべき道の一つが明示されているように思います。
また、デルコンピュータの事例にて 通販でしか手に入らないその商品をテスト的に神田の三省堂書店でコーナーを設け販売した結果、 想像以上に売れたことが上げられています。 そして本を探しに来た読書家が目の不安を持つその脇に眼鏡の相談コーナーを設けた事例も上げられ、 無目的に近い書店への来客が書籍に限らない購買行動へと結びつき易さが示唆されます。 即ち書店は書籍、雑誌の販売のみで収益を上げなければならないと言う規定はないのですから、 書籍と関連付いた他商品販売コーナーとの併設はむしろ奨励されるべきなのでしょう。 本ブログ運営者の在住する浜松では書店にそれこそ スタバなど喫茶店が併設されていることは珍しくなくなってきました。
インストアマーケティングの手法の一つとしての自炊
上の如き手法の有るならば此処に本ブログ運営者として一つ提案したいのが 2011年10月19日の記事 自炊とは?書店と競合するか? にもしました書店店舗内自炊コーナーです。 記事にても決して書店と排他的存在ならぬ、 本から電子データに置き換えるその手法たる 自炊 は返って書店内に有って然るべき存在であるほどに考えます。 翻って自炊コーナーに所有書籍を持参した顧客の 何気なく陳列棚を閲覧する内に新書籍をレジに携え至るのは至極蓋然性が高いと言えるでしょう。 書店に自炊にて処分した持参の書籍の替りに購入した書籍の書き出しを 併設の喫茶店で珈琲を飲みながら閲して持ち帰り 開いたスペースに挿し込むのは極々自然な行動のような気がしてなりません。 インストアマーケティングの一つとして自炊は有用な一手法として普及されることを期待します。
書店に敢えて形を変じても生き残り請う
本ブログには2011年9月25日に記事 電子書籍の市場は2015年に2,000億円以上と予測される にて郷愁の紙媒体たる書籍はその総数を お江戸、明治の昔に戻すべき主張をしましたしが、 決して紙の本という形式の消えて欲しくもあらず、 行き付けの書店の駐車場がよしんば満車で入店出来ずともそれはそれで嬉しく思う、 とは先ず有り得ない状態を見越しての言ですが、 その込み具合の繁盛を見て取れるのに満足を得るのは本ブログ運営者の本意とする処です。 そして電子書籍の普及を積極的に願うのと同じく、 本屋はサザエさんの漫画の如き店主のハタキで立ち読みをはたく昔の状態を維持すべし、 とは決して申さぬ新たなる形態を積極的に取り入れて 書店なるビジネスを如何か守っていただきたいものだと切に願っているのです。