プロプライエタリなソフトウェア(proprietary software)の配布形態は近年大幅な変貌を遂げつつあります。 従来はCDなどにプログラムが焼かれパッケージに封緘されて利用者の手元に小売店などを通じて届けられたものですが、 今や多くの国でインターネットが隅々まで敷設され、ネットワーク回線も年々速度を増せば、 ネットワークを通じて配布し、ユーザー管理も同様にネットワークを介して提供される処となりました。
此の形態を称してクラウド型とするのも最早耳に馴染みのあるものですが、 中にも2種類の提供法があるようです。 一つはGoogle社やセールスフォース(Salesforce)社に代表されるSaaS型でしょう。 プログラム自体は手元ではなく提供側のリモートサーバーに存在し、 作成データのみをネットワークを介して利用する形態です。 もう一つがプログラムを手元にダウンロードして手元のコンピュータにインストールして利用する形態です。 後者の方式を以て一般には サブスクリプション(制[度]・契約) と呼ばれ、其の代表がマイクロソフト社の Office 365 であるでしょう。 そして同じくサブスクリプション制の採用が話題となり、 本記事タイトルにあるように実際に契約、利用してみた Photoshop写真業界向けプログラム はアドビ(Adobe)社の提供するクラウド型のプロプライエタリ・ソフトウェアになります。
デザイン業務には必須のアドビ社ソフトウェア
一体、アドビ社の提供するソフトウェア群はグラフィックデザイン業務に欠かせないもので、 此れなくしてデザイン及びデザインの実際への反映、例えばホームページの制作には有り得ないのが現状です。 無償若しくは廉価で利用出来る優れたグラフィックエディタソフトは例えば GIMP や Inkscape など枚挙に暇ありませんが、其れでも尚高価なアドビ社のソフトウェアが必要とされるのは、 高機能であるのは兎も角、データの遣り取りに欠かせないからでした。 デザイナーもWeb製作者も印刷所も皆が挙ってアドビ社プロプライエタリソフトを採用すれば 自ずとデータの遣り取りには共通のソフトが必要になる理屈です。 前時代に市場を制したアドビ社の遺産とも言える状況に、 グラフィックデザインを利用するには当該者のソフトウェアが不可欠となるのでした。
変化を余儀なくされるアドビ社
しかし今市場は変化しつつあります。 上記したクラウド型ソフトウェアの勃興であり、 オープンソースとして無償で利用可能な優れたソフトウェアの登場です。 而して覇者アドビ社と雖もサブスクリプション制へシフトせざるを得ず、 現在CS(Creative Suite)なるパッケージ形式から CC(Creative Cloud)への移行が進められているのでした。
CCに於いてはマイクロソフト社オフィス365と同様に パッケージの買い切り方式から月々課金へ変更がなされているもの特徴的です。 バージョンアップ商法とも言えるソフトウェアが改変される度に 其れに合わせてバージョンナンバーの上がったソフトウェアの入手にはコストが要りましたが 此れが月々課金となることで特別な費用が発生せずバージョンアップも適用されるのは Googleやセールスフォースなどの振興クラウド勢への対抗上の措置と言えるでしょう。
アドビ社がキャンペーン展開をせざるを得ない事情
但しまだまだ市場はアドビ社の手中に有りますから なかなか其の価格は廉価と言えるものではありません。 業務上に必須の固定経費ともなれば少々手痛い出費ともなります。
此の印象を抱くに多くの利用者も同様のようで、 漸次アドビへの依存を切ろうと言う状況でもあるようです。 従って客離れへの対応が迫られるアドビは唯に機能の向上のみならず値段を抑える必要がありました。
ただ安易に正価を切り下げるのはベアと同様経営陣には俄かに受容し難い事情でもあるでしょう、 従ってボーナスの如きキャンペーン価格で提供される機会が増えて来たものです。
キャンペーンとしてのPhotoshop写真業界向けプログラム
其のキャンペーンの一つとして2013年9月24日にアドビ社からアナウンスされたのが Photoshop写真業界向けプログラム 〔※1〕 でした。 其の提供サービスは以下とされています。
- Photoshop CC
- Lightroom 5
- 20GBのオンラインストレージ
- Behance ProSite
- Creative Cloud Learnのみで提供されているトレーニングコースの利用
- 継続的なアップグレードとアップデート
Photoshop(フォトショップ)はアドビ社のソフトウェア中にも筆頭とも言える存在で グラフィックデザインに関わって触った経験の無いと言う向きもないでしょうくらいのものです。 他のサービスも鑑みればキャンペーン名に冠される通り写真業界にかなり魅力的であるには違いありません。 此れが一般はどうあれアドビ社としては比較的廉価な 月額1,000円 で提供されると聞けば、恐らくは未だ最新バージョンの Photoshop CCを入手して無い向きの食指の多くは動いたものと考えられます。
Photoshop写真業界向けプログラムの契約条件と其の緩和
しかし此のキャンペーンプログラムを契約するには一定の期間は勿論、条件が有りました。 期限としては今年2013年一杯、12月31日迄、そして条件としては CS3以降の製品を正規所有するアドビユーザーが対象 であるとされていたのです。 此の条件文に臍を噛んだ向きもあるかも知れません。
処がキャンペーン効果が薄かったものか、条件の緩和がアナウンスされたのが2013年11月21日でした。 〔※2〕 期限は2013年12月2日、詰まり本記事投稿日である本日を以て終了と若干短くなるものの、 アドビユーザーである、ないに関わらず此のキャンペーンプログラムが提供される、とされたのです。
契約締結への後押し~其の壱
而して自らが契約可能となっては此のキャンペーンプログラムを以て Photoshop CCを入手した際の他の条件を調べざるを得ません。 サブスクリプション制に関して気になるのはライセンス数です。 解答はアドビ社サイトのFAQ 〔※3〕 に有りました。 ご使用開始にあたって には Creative Cloudからダウンロードしたソフトウェアを複数のコンピューターで使用できますか? なる質問が用意され以下の如く解答されています。
はい。 Creative Cloudデスクトップアプリケーションは、オペレーティングシステムに関係なく、 Creative Cloudメンバーシップに関連付けられている1人のユーザーの 2台のコンピューターにインストールしてライセンス認証することができます。 詳しくは、製品の使用許諾契約ページをご覧ください。
更に詳細は使用許諾契約ページを閲する必要がありますが、 オペレーティングシステムに関係なく … 2台のコンピューターに と言うのですから、WindowsとMac、両機にインストールするのも可能となる理屈です。
契約締結への後押し~其の弐
更に後押ししたのは Fireworks の開発がCS6を最後に停止されると言う情報です。 〔※4〕 公式にアナウンスされてはいる 〔※5〕 もののサポートは継続されるなど幾分を暈しを持たせた感も有りますが、 アドビ社のリソースを鑑みればCSとCC、更には2つのグラフィックエディタの継続開発は負担と考えて差し支えありません。 其処で比較的一般的なPhotoshopに社内資源を集中するのは大いに有り得ます。
アドビ社はグラフィックデザイン界の雄として又互いの生存を掛けマクロメディア社を2005年に吸収合併しました。 マクロメディア社の筆頭グラフィックエディタソフトとしてFireworksは在ったのですが、 此れを以てアドビ社のソフトウェアとなり1社に2つのグラフィックエディタを擁することとなった経緯があります。 爾来其々を独立してユーザーに提供して来たのですが、 時代の変遷にあってアドビ社も恐らくは許容し兼ねる状況となったのではないでしょうか。
従来はデザイン業務に於いて幾社か付き合いがあれば Photoshop、Fireworksの孰れかが必ず利用される状況下、 両ソフトウェアに対応する必要があったのですが、 片方の開発が止まるとなれば残る片方を入手する大きな理由となり得ます。 Photoshopこそがアドビ社がリソースを傾注するソフトウェアとして採択されたからには 此れも今回の契約へと背中を押してくれる大きな理由とならない筈もありません。 グラフィックエディタソフトの2重利用に於ける経済コスト、学習コストを半分に省けるからです。
こと此処に至り漸くPhotoshop写真業界向けプログラム契約締結へと歩を進めた次第、 以下に其の契約の際の進捗を図等を交えながら共有するものです。 なお、Photoshop CCをインストールした手元の環境はWindows 7となっています。
Photoshop写真業界向けプログラムへアクセスする
今回のAdobe Creative CloudのPhotoshop 写真業界向けプログラムには 右上の図に見えるが如き専用ページが用意されており、以下が当該ページへのリンクになります。
Photoshop 写真業界向けプログラム:Adobe Creative Cloudリンクの遷移先には以下の説明書きが記されています。
期間限定で、どなたでもCreative Cloud 特別プランにご参加いただけます。プランには Photoshop CC および Lightroom 5 へのアクセスに加え、機能のアップデートやアップグレードが提供された場合には、これらの適用が含まれます。また、ファイル共有や共同作業にお使いただける 20 GB のクラウドストレージや Behance ProSite もご利用いただけます。2013 年 12 月 2 日まで(期間限定)に年間プランにサインアップしていただいた場合、どなたでも月額 1,000円でご利用いただけます。ご質問がある場合は、FAQ および利用条件をご参照ください。
この画面のページ内の右上の青い 月額 1,000円 で購入 ボタンをクリックすればオンライン契約画面に遷移します。
Adobe IDを用意する
画面遷移した Creative Cloud に登録 画面を見ると契約工程は以下の4工程となっているのが分かります。
- 最初に、Adobe ID でサインインします
- メンバーシップの詳細を確認します
- 支払い情報を入力してください
- 申し込みの確認
手元の環境では既にAdobe IDは取得してありました。 Photoshopユーザーではあったもののインターネット接続の一般化される以前の話で 長くバージョンアップしておらず取得したのは数ヶ月前に提供されたHTMLアニメーション、オーサリングツールである Edge Animate CC を利用した機会に取得したものでした。 時代の流れとは怖いもので正直アドビ社のアカウントは訳が分からないくらいに幾つか持っているのですが、 今回はCCと結び付いているために此のアカウントを利用しました。
勿論上の図に見える如く Adobe IDをお持ちでない場合 なる項目も用意されていますので、初めての向きにも問題ないでしょう。 Creative Cloudを利用するにはAdobe IDの取得が必須となります。
メンバーシップの詳細を確認する
Adobe IDでログインするとメンバーシップの詳細の確認画面が表示されます。
其処には月額1,000円也の年間プランであり、1年契約である旨が記されます。 その他メンバーシップ契約を結ぶ詳細を以下に引用します。 下の確認ボタンを押せば此れ等の支払条件に同意することとなりますので確り確認しましょう。
- お支払い
1 年間の契約期間中、購入時に提示した料金に所定の税金を加算した金額を、毎月徴収いたします。このサインアップ手続きが完了し、お支払い方法が確定した時点で、メンバーシップが開始されます。- 更新
この価格は 12 か月間有効です。それ以降は、お客様から解約のお申し出がない限り、本契約は自動更新され、その時点で最新の特典料金が請求されます。価格は変更される場合がありますが、その場合は必ず事前に通知いたします。- 解約
30 日以内の解約については、料金を全額返金いたします。それ以降は、残りの契約期間で発生する料金の 50% を請求いたします。解約をご希望の場合は、カスタマーサポートにお電話でご連絡ください。
支払い情報の入力
支払い情報を入力しますがAdobe IDに関連した情報が補完入力されます。 画面は下の図の如くなっています。
申し込みの確認
申し込み事項を確認します。
申し込みの確認 ボタンを押すと支払い処理が開始されます。
契約の完了とPhotoshop CCのダウンロード
ありがとうございます。お支払の処理が完了しました。 「ダウンロード」ボタンをクリックして Photoshop をダウンロードできます。
以上を以て契約が完了しました。 するとPhotoshop CCのダウンロードが可能になります。 画面は右の図の画面に遷移し、其処には上の引用の如き表示がされています。
此処で右図の画面右上に見られる ダウンロード ボタンを押すとインストーラーのダウンロードが開始されると言うよりはアドビのクラウド管理ソフトとしての Creative Cloudが立ち上がりインストール作業を開始する、と言った方が感覚的に近い処理がなされます。
折角契約をした手元の環境ですのでシームレスにダウンロードを開始してみました。 するとEdge Animate CCを導入して数ヶ月、何も操作及びアクセスをしていなかった為か、 Adobe Application Managerのバージョンアップが始まりました。 クラウド管理ソフトとして然るべき改訂がなされているものの適用だと思われます。
進捗状況は以下の図の如くプログレスバーで視認出来ます。 Adobe Application Managerのバージョンアップが済むとCreative Cloudが立ち上がります。
Creative CloudとPhotoshop CCのインストール
Creative Cloudの利用に際しての使用許諾契約書が提示されます。
Creative Cloudはアドビ社のソフトウェア管理統合環境とでも言った感じでしょうか。 立ち上がると右の図の如くアドビ社のソフトウェアが一覧出来ます。 下の図は Apps メニューの内にも グラフィックス に絞った表示です。
インストールはシームレスに開始されていますので右のCCの画面では 赤枠で囲ったPhotoshop CCの右側にプログレスバーが表示されています。 矢張りPhotoshopは巨大ソフトウェアに変わりないようで プログラムのダウンロード含めかなりの時間が掛かりました。
Photoshop CCのインストールが完了すると左のCCの画面のように チェックマークと共に最新の表示がされています。 因みに両側とも画面の最上部に表示される既にダウンロード済みの Edge Animate CCの項目も最新状態となっています。
Photoshop CCの立ち上げ
インストールが完了したので確認の意味も込めて立ち上げてみた Photoshop CCの画面が下の図になります。
Creative Cloudに提供予定のサービス
Creative Cloudの画面に於いて ファイル メニュー、及び フォント メニューをクリックして表示されるのが下の左右の図です。
共に まもなく公開: Creative Cloudを使用すると とある一文の後に其々の提供サービス内容が端的に現されています。
左図のファイルに於いては デスクトップファイルをクラウドに同期できます。 とされていますので謂わば Dropbox(ドロップボックス) に代表されるオンラインストレージサービスが提供されるものでしょう。
右図のフォントに於いては Typekitフォントをデスクトップでも利用できます。 とありますので、アドビ社の提供するフォントを利用出来るものと思われますが、 重要なのは遠隔地でデザイン業務をシェアする利用者が同じフォントを利用可能となることです。 Photoshopデータの遣り取りに於いては使用フォントの有無が問題になること屡なのは 関連業務に携わる向きには首肯出来る処でしょうから先ず先ず嬉しいサービスと言えるでしょう。 同様にファイルも共有にこそ効力が発揮され遠隔地の協業が頗る効率的になるものと思われます。
Photoshop CC利用開始に於ける印象
実際には契約は昨日2013年12月1日に交わしましたので 既に手元にPhotoshop CCは稼動し此のブログ記事の図も当該ソフトで処理していますが、 古いバージョンの感覚の儘でも其れなりに使えるのは確かです。
手元の環境は64bitのWindows 7機であり、 Photoshop CCは32bit版と64bit版が同時にインストールされ共に立ち上げ可能ですので、 折角ですので64bit版を利用していますが其のメリットを体感してはいません。 ただ古いバージョンのユーザーとしては例えば拡大、縮小などの基本的ソフトウェア機能が 其れなりに分かり易く改善されている印象は受けました。
唯今回Lightroom 5と言うソフトウェアを含めた上での価格とは言え、 月々1,000円也の価格設定は些か高価に感じられるのも正直な処で、 以前古いバージョンから新しいバージョンに何回かアップグレードした際、 2年に1度程の頻度で2万円程掛かったような記憶もあり、 何時の間にか古いバージョンで我慢することとなった経緯もあるからには もう少し廉価な設定が望まれるものです。 例えばマイクロソフト社の25名迄の小規模企業及び組織用の Office 365 に於いて Office 365 Small Business Premium プランがOfficeアプリケーションを含んで年間契約12,360 円、 月額では1,030 円相当とされており、此れと比較すれば 今回のアドビキャンペーン価格はPhotoshopのみで些か割高な感じも否めず 此れにイラストレーターも併せた契約であれば漸くマイクロソフト並みのお得感は醸し出せる気もします。 今後Creative Cloudメンバーシップ用に割安なイラストレータープランの提供が望まれるように思う処です。
IT業界を見渡して、 クラウド型にもリモートホストに於いてソフトウェアを提供するGoogle社やセールスフォースを新興勢力と見れば、 手元にソフトウェアプログラムをダウンロードするタイプの方式を採用しているのは 今回ブログ記事とした処のアドビ社にマイクロソフト社となるでしょう、 孰れも一昔以前は斯界に覇を唱え牛耳った言ってみれば若いIT業界に於いては老舗企業であり、 インターネット普及に因る地殻変動に対応すべく苦慮している企業であるのも興味深いものです。 イラストレーターの何某か形を取っての廉価な提供も有り得るものかも知れません。
さてデザイン業界の現状を見たときまだまだ効果的だろうと思われるアドビ社の今回のキャンペーンは 同社のユーザーならずとも後、数時間の間は新規契約の可能なもので、 またCS3以降のユーザーであれば今年一杯は契約が可能となりますから、 本記事に記した如き事情を以て 此の機会に入手しておいても其れ程塩梅の悪いものじゃないように思いはします。
参考URL(※)- 【お知らせ】Photoshop写真業界向けプログラムのご案内(2013/12/31まで)(Adobe Community:2013年9月24日)
- Adobe Creative Cloud の写真業界向け特別プラン(Photoshop 日本公式ブログ:2013年11月21日)
- Adobe Creative Cloud - FAQ
- グッドバイ、Creative Suite―Adobe、定期課金によるクラウド・モデルに全面移行、CS6は当面販売を続けるものの新規開発は中止(TechCrunch Japan:2013年5月7日)
- The future of Adobe Fireworks(Adobe Fireworks:2013年5月6日)