21世紀日本発 超高層免震技術

コンサルタント風人物により粗製乱造される自己啓発本がベストセラーとなれば即ち乱発を招く中、 そう云った類の薄めた生地で餡子の少ない儘型焼きされる出来損ないの鯛焼きのようなものとは異なり、 実際にことに当った技術者が事案其の儘に記述される書籍は 何冊も世に出る類のものではない為、非常に目にとまり難く、 書肆にて偶々手に取れば興の惹かれて、 春から夏への季の移り変わりに少々余裕の出来たのを好いことに書を繙くに時を投じられ、 今回ご紹介できるのも僥倖だと思っております。

この本 1兆円市場を拓いた男 を拝読するまでは 制振、免震、耐震の区別も付かず、 また空覚えの聞きかじりの耳学問にて 超高層ビルの地震に対する供えは風にそよぐ柳の如く万全であるかのように思っていたのですが、 専門家に於いても「超高層は元々耐震性が高いから、免震は不要」なる文言の箴言の如く唱えられ、 「免震は中低層建築向け、高層・超高層は制振で」が不文律となっては弊害のみ多くある中、 其の実はひとつの技術が障害となって免震の実現されぬだけであり、 当該技術が本著者によって日の目を見たのも今世紀となれば、 前世紀の超高層ビルと云うのも60m以上の建物を云うのは今回初耳の、 ビルと云うビルは軒並み免震性を持たぬビルにて、 となれば遠州浜松の顔とも云うべき、212mの高さを誇る アクトタワー も必然的に機能の有さぬことなれば、少し口惜しくもあります。

本書は日本発の日本以外には無い独自技術、超高層免震の 業界にて私生児扱いされた当技術の産みの親たる其の本人による 世紀を跨ぐドキュメントであり、 また其の経験を通してエンジニアの道標となるべく編まれた技術者啓発書であり、 著者は大手建築企業の研究者として長年従事、上記事業を成した後、 現在は地元静岡にて研究開発コンサルタントをされている内山義英氏其の人です。

綴られた文面要所に登場すserendipityとは研究に携わった者であるならば、 仮令其れが通常の大学のゼミナールの如く低レベルの卒論のようなものであっても、 屡聞かされるテクニカルタームにも類ずるものにて、 凡庸教授連の恋焦がれる賢者の石の、 セイロンの寓話の如く、教授連により語られる先達の挿話こそ寓話に違い無けれども、 実に魅力的な偶発的成功譚及び3σ規格外発想は矢張り読んで引き込まれ、 只其の一点に於いてだけでも本書を手に取る価値があるかに考えます。

内容にては事に当っての心構えが頻繁に登場する抔の、 多少前期自己啓発本の影響を受けている感があり、 マーケティング上止む無きとは云え、時によっては太字にての表記の必要性も感じられず、 該当する件に掛かる段になると残念な感じが拭えません。 同様に技術書ではないことの明らかなれど、 技術的側面の説明が素人心にも多少喰い足りない感を受ける抔、 失礼乍当該書籍は素人向けに広く売らしめんとての、 漢字を平仮名にして開くと称す様な、 編集上のこの際要らぬ技術が見え隠れする様な気もします。
併し乍圧巻は矢張り技術的側面に現れます。 一方の免震装置たるリニアスライダーの破壊実験時、 危険を顧みず、安全地帯より出で趣き油煙に塗れ一心に一万トン加重の実験装置を見守る、 其の口から僅かに洩れる「データを信じろ…」なる呟きは、 書面には表記されずとも、 膨大な作業量に依る膨大なデータ量に支えられている姿勢以外には考えられません。

装丁デザインが社会摘発的な色合いで 充実した内容の適切に表現されているとはお世辞にも云えず、 タイトルも私の様な愚かな人間が手に取りやすい安っぽい「一兆円産業」抔が踊りますので なかなか売れ難い状況が揃っているとは思いますが、 是非心ある方には先ずは書肆にて手にとって頁を繰ってみていただきたい書籍だと感じています。
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「21世紀日本発 超高層免震技術」への5件のフィードバック

  1. 耐震・制震・免震

    1兆円市場を拓いた男当ブログ2008年5月8日のアーティクル21世紀日本発 超高層免震技術にてご紹介申し上げたのが、右書籍1兆円市場を拓いた男にて、ネットを見渡せば当書籍序章に感慨深げに、本編にも多くの頁を割いて記述される、超高層免震の実用化の嚆矢となったパークシテ

  2. 何が本物で何が偽者か分からなくなっている今の時代にあって、「信じられなくてどうする」「データを信じろ…」と、憚ることなく言っているところが、かえって新鮮でした。
    著者は「心構え」以上の、スピリッツ(心根)とかソウル(魂)の深みを示したかったんだろうと思います。心根がしっかりしてこそ、後からついてくるものがあるのではないのでしょうか。
    私にとっては、技術書でありながら人間哲学書でもありました。技術書の新ジャンルでしょうか?
    太字が多いのは、速読の方には都合が良いのでは。装丁は気になるほどではありませんでしたが、カバーはもうちょっと何とかならないものでしょうかね。

  3. アイデアの前にロジックがあり ロジックの前に概念コンセプトがある
    アイデアが出ないと嘆くのは コンセプトを持っていないと白状するような 恥ずかしいこと
    コンセプトの引き出しを持つために 既成のパラダイムを打ち破らなければ ただし是々非々で

  4. 読みました。日本に決定的に足りていないものが何か、少し見えてきたような気がします。それは政治でも経済でも文学でもない。
    かつては日本にあって失われたもの=missing pieceを探す姿勢。それが尊いと思われる風潮。
    はやぶさの偉業と合わせて考えると、その失ったものの大きさが見えてきます。

  5. 誰もやっていない→だからやってやろう!
    との叫びが、凄く響いて勇気をもらいました。ありがとうございました!

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